古典に学ぶタイム・マネジメント|第50回 キング牧師に学ぶ

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(1929-1968)といえば、人種差別に真っ向から立ち向かった米国の指導者であり、“ HAVE A DREAM.”という言葉で始まる演説を残したことでも、よく知られています。その功績によりノーベル平和賞を受賞するなど、人種差別撲滅を願う人々の精神的支柱として、国内のみならず世界中から支持を得ていました。「キング牧師」の名前で覚えている人も多いことでしょう。

●汝の敵を愛せ

「静かに!みなさん、お静かに。みなさんの中で、武器を持っている者は家に持ち帰りなさい。持っていない者は、探しに行ったりしないように。仕返しに暴力を使ったところで、問題は少しも解決しません。白人の兄弟たちがなにをしようと、私たちは彼らを愛さなければいけない。私たちが彼らを愛していることを、彼らに知らせなければいけません。(略)憎しみには愛をもって報いなければいけません」

当時の米国では、公共施設などにおいて白人と黒人が使用できる場所を明らかに区別していました。バスに乗るときでさえ、黒人は白人たちの席に座ることが許されていなかったのです。

キング牧師と仲間たちはそのような状況を打破しようと、黒人を差別するバスには一切乗車しないという「バス・ボイコット」運動を始めました。この運動はあらゆるコミュニティに波及し、バスの運営会社に大きな経営的打撃を与えることに成功します。

しかし、その報復として、リーダー格であったキング牧師の自宅に爆弾を投げ込まれるという事件が発生。幸い、キング牧師は不在であったため難を逃れましたが、臨戦態勢をとった仲間たちが次々と彼の家に集結し、物騒な雰囲気が高まっていきました。

そのときです。キング牧師は上に引用した演説を行い、報復への士気を高めるどころか、手にした武器を置くように働きかけたのです。こうした優れたリーダーシップと一貫した非暴力的な姿勢こそ、彼を黒人のみならず白人にも一目置かれる存在へと押し上げた大きな要因といえるでしょう。

リーダーシップ開発の第一人者であり、晩年までコンサルタントとして活躍した故ブレイン・リーは、著書『パワーの原則』(キングベアー出版)において、「違いはどこから生まれるのか」という問いに対し、「答えはあなたの中にある」と前置きした上で、このように述べています。

「『新しい』何ものかというよりも、伝統的文化や古代の書物に記された知恵に似たところがある。問題は、そうした常識が必ずしも日常の行動様式にはなっていないことなのだ」

キング牧師が実践した思想は、ごく当たり前のことであるにもかかわらず、当時の社会においては非常に画期的なことでした。リーの「答えは我々の中にある」という指摘は、いつの時代にもいえることなのかもしれません。

●“I HAVE A DREAM.”

なにしろ真夏のひどい蒸し暑さの中である。延々と何人もの指導者のスピーチがくり返されるうち、気分が悪くなったり疲れたりして倒れる人も1000人以上にのぼったという。(略)最後のスピーカーとして演壇に立ったのがキングである。ランドルフ(編注:この演説大会の司会者)が彼を紹介すると、この広場に群衆の拍手と歓声が湧き起って、キングは何分も待たなければスピーチを始めることができなかった。

キング牧師の業績の中でも最もよく知られているのが、リンカーン記念堂の前で行われた、この“I HAVE A DREAM.”の演説でしょう。

この演説が行われたのは、真夏の炎天下、すさまじい猛暑の中でのことでした。キング牧師の前にも数多くの演説がなされ、25万人の聴衆の疲労は限界に達していました。そうした悪条件にもかかわらず、人種差別の撤廃と人種間の協和を訴えたこの演説は、後世にも語り継がれるほどの熱狂的な共感を得たのです。

もともと巧みな話術に定評のあるキング牧師が、当日の朝まで推敲を重ねたというスピーチの文面自体、非常に素晴らしいものであったことでしょう。しかし、それ以上に人々の心を打ったのは、彼自身の人格、ブレのない行動とその成果など、彼の生き方そのものだったのではないでしょうか。

「主体性」について、故スティーブン・R・コヴィー博士は、著書『7つの習慣 成功には原則があった!』(キングベアー出版)の中で、「自分の反応を選択する能力」であると定義しています。自分自身にどのような出来事が降りかかるかを選択することは不可能でも、その出来事に対する反応は自ら選択できる。この選択能力こそが主体性だと、コヴィー博士は述べています。

人種差別を受ける側にいたキング牧師は、暴力を受けても非暴力の抗議スタイルを貫き、妨害行為に対しても安易な報復行為を禁じ、はやる仲間たちには武器を置くよう呼びかけました。まさしく主体性を持って、自らの行動を選択したわけです。

多種多様な刺激に対し、自ら主体性を持って反応を選択し、常に自分自身であり続けること。キング牧師が生きた時代とはまた事情が異なりますが、激変を繰り返す現代の複雑な情勢の中、私たちが心して備えておくべき大切な要素の1つであるといえるでしょう。

(参考: 『キング牧師とその時代』、猿谷 要 著、日本放送出版協会、『マーチン・ルーサー・キングの生涯』、ウィリアム・R・ミラー著、高橋 正 訳、角川文庫)

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