第11回 「ノー」を伝える(1)

商品開発部の管理職である山本さんの例をご紹介しましょう。

管理職に就き3ヶ月。部下のマネジメントにも慣れてきた頃、部下からの相談を多く受けるようになってきました。
よくあるのは部下がすっかり取り乱したふうでデスクに飛んできて、山本さんが気づいてくれるのをじれったそうに待っている、というパターンです。山本さんが仕事の手を止めると、部下は緊急案件、差し迫った問題、要請などをいろいろ口にし始めます。
山本さんは部下の抱えている問題に同情しますが、重要度合いを考えると、自分が現在対応している問題のほうがはるかに重要性が高く、締め切りも迫っています。しかし部下は助けを求めています。それは表情を見ればわかります。山本さんはどう返答してよいかためらいます。部下の期待を裏切りたくはありません。なんといっても、相手は自分が毎日一緒に仕事をする仲間ですから。しかし、もし助けることに同意したら、さらに負担が増え、チームや自分に悪影響を及ぼすことが十分に考えられます。山本さんはどうすればいいのでしょうか。

●ノーといえない理由

あなたが山本さんの立場になったとき、あなたは断ることができますか? 断ることができない理由にはどのようなものが考えられるでしょうか? 形式にはこだわらずに、思いついたものを挙げてみましょう。そしてそれらのうち、自分にとって最も重要な要因はどれですか?

スコットランド出身でイギリスの首相を務めたトニー・ブレアが、的を射た発言をしていますので紹介しましょう。

リーダーシップの技術とはイエスということでなく、ノーということである。イエスということは非常に簡単なのだ。

我々の研修において「ノーといえない理由」として頻繁に挙げられるものも挙げておきましょう。

どんなことでも可能だと考えているから。
持っていると思われたい、求められたいという心理的なニーズを感じるから。
人をがっかりさせたくないから。
緊急性を重要性と取り違えているため。
交渉の余地がないと感じるから。
自分を導いてくれる原則と価値観を見失ってしまっているから。
すぐに答えを出すべきであると思ってしまうから。
罪悪感よりもストレスのほうが受け入れやすいため。
ノーというのは失礼だと考えているから。

●なぜノーということが大切なのか

先ほどはノーといえない理由を考えました。続いてノーということがどうして大切なのかを考えてみましょう。この質問に対してコヴィー博士はこのように述べています。

ノーといわなければならない事柄もあるのです。もしあなたが重要でない事柄にノーといわないならば、重要な事柄にもイエスといえないかもしれないからです。「よいこと」でさえ、よりよい、あるいは最もよいことにあなたが到達することを阻む可能性があります。
そのままにしておいたら、あなただけしかできない貢献を実現できないままに終わってしまうかもしれないのです。実は、「よいこと」が「最良のこと」の最大の敵であるケースは多いのです。

コヴィー博士のいうとおり、ノーというべきところにイエスといっていたら、本当にイエスというべき場面でノーといわざるを得ないというわけです。私たちに与えられた時間は有限であり、できることにも限りがあります。
しかし、とはいっても、やはり部下にノーとはいいづらいのではないでしょうか。

次回はいかにしてノーを伝えるかについて考えていきましょう。