第15回 危機的状況に対応する(1)理解するために聞く

【このような体験はありますか?】

現在、午後6時。システムエンジニアの管理職に就く山口さんはまだオフィスで、今日がリミットの企画書をまとめようとしています。今日は家族のために早く帰りたかったのに・・・しかし自分で撒いた種。仕方がありません。

彼は今日一日、振り回されっぱなしでした。出社途中にもかかわらず携帯電話に上司からの連絡があり、「お客さんがカンカンに怒っているようだ。すぐに対応してくれ!」

山口さんは急遽予定を変更し、得意先に向かいます。システムにトラブルがあったようで、ほとんどパニック状態の担当者がいました。

落ち着いてもらおうと原因を1つずつ探っていくと、単純なオペレーションミスが原因でした。山口さんでなくても対応できることでした。

昼過ぎに出社すると部下が早速助けを求めてきます。丁寧にやり方を説明し、自分で対応するように指示しますが、不安な表情です。

しかし、間髪を入れずに今度は他部署から応援要請を受け、部下への指示もそこそこに応援に向かいます。

作業に取り掛かると、自分の専門外であり、他の課に振るべき仕事であるとわかりました。そこで適切な課の作業者を手配し、到着を待って、事情を説明しました。

こうしてようやくデスクに戻ることができました。企画書に取り掛かれたのは午後5時過ぎ。調子も出てきたところで、電話が鳴ります。午前中に出向いた得意先でした。また来てくれとのことです。

午前中のことを思い出し、今度は電話で詳しく事情を聞きました。デスクトップで仕様書を確認しながら、状況を把握したところ、なんとか電話で対応することができました。

しかし、すでに午後6時。

今日中に仕上げなければならない企画書が残っています。朝から対応できていればと思うと悔いが残ります。今後もこうした緊急対応に振り回されるのでしょうか。いったいどう対応すればいいのか、不安な気持ちで一杯になる山口さんでした。

【危機にどのように対応するか】

危機的状況には即座に対応することが必要です。待ったなしの状況の中、関係者は1秒でも早い対応をと、あなたに対して助けを求めてきます。彼らは「今」、「あなた」の支援が必要であり、さもないと何か恐ろしいことが起こると感じています。そしてあなたは「わかりました。なんとかやってみます」とつい返事をしてしまいます。

しかし、本当にあなたが行うべきことなのか、あなたが適任者なのかを、詳しい状況や原因が何もわかっていないのに判断できるものでしょうか。

もし彼らの問題が本当にあなたに解決できる危機であるならば、どうやってそれを処理すべきかを早急に考える必要があります。

しかし、そうであると判断するまでは安易に動いてはいけません。慎重に検討し、あなたの時間や専門知識がなくとも対応できることに、あなたの貴重な時間を費やすことがないようにしっかり判断してください。

目標達成についての、コヴィー博士の発言を紹介しましょう。

私たちが目標を達成するには2つしか方法はない。時間を投入して自分で実行するか、他の人に任せるかのどちらかである。

【他人の問題解決のための3つのステップ】

他人の問題を解決するために、長く複雑な意思決定プロセスを採用する手間はかけられませんが、状況を評価し、自分が関与するか否かを迅速に判断するプロセスを採用することはできます。

そこで今回紹介するのは、以下の3つのステップです。これらを「緊急事項」が持ち込まれたときに行ってください。的確で効果的な判断ができることでしょう。

  1. 理解するために聞く:問題の本質を理解していることを確かめます。早く結論を出したくても、グッとこらえてください。危機への対処は「急がば回れ」です。
  2. 評価する:その問題が自分の即時対応を必要とする真の危機であるかどうか決定しましょう。
  3. 決定を実行に移す:もしその問題が危機であると思わないならば、丁重に断るか、自分の関与を見合わせます。確かに自分が必要であると信じるのなら、すぐにエネルギーをその問題の解決に振り向けてください。

【1.理解するために聞く】

誰かがあなたに対して危機的状況を突きつけたら、すぐに仕事の手を止めて、真剣にその状況について聞いてください。話を聞く際のポイントをいくつか紹介します。

  • 相手の目を見る(直接話している場合)。
  • コンピュータ画面や携帯電話と競わなければならないような状況に相手を追い込まない。
  • 相手の話をさえぎったり、批判的なコメントを差し挟んだりしないようにする。
  • 相手の口調やボディ・ランゲージに注意を払う。
  • 相手が話し終わってから質問をする。

問題を十分に理解できたら、自分の他の優先事項との兼ね合いで、率直にその問題の重要性を評価しましょう。

面と向かって、あるいは言葉による要請ではなく、書面やメールなど他の形態で緊急支援の要請を受ける場合もあります。その場合、要請を処理すべきかどうか決定する前に、十分に状況を理解するようにします。事情をもっとよく理解するために個人的に会ったり、電話をかける必要があると思えば、そうしてください。そして、その際は相手の言うことに注意し、理解するために聞くことを心がけてください。

次回は、【2.評価する】【3.決定を実行に移す】です。

次回へ続く