「信頼は可視化できない」これはほとんどの人が抱いている考え方です。しかしこの考え方に対し、スティーブン・M・R・コヴィーは「信頼は経済的な側面に直結する」といいます。どのようにすれば可視化し、経済的な影響をもたらすことを確認できるというのでしょう。
世界中を震撼させた「9・11」の事件のあと、アメリカの空港ではテロ対策の一環として、出入国の審査が非常に厳重になりました。以前、国内線であれば出発時刻の少し前に空港へ到着すればよかったようですが、事件の後では、1時間は見ておかなければならなくなったそうです。国際線になると、数時間に増加します。
具体的な算出結果は報告されていないようですが、世界各国のビジネス・パーソンが出入国のためにどのくらいの時間をロスしているのでしょうか。少し話はそれますが、このようなデータがあります。
アメリカのRescueTime社の報告によると、2010年5月26日、Google社は、「パックマン」30周年を記念して、サイトのトップページをゲーム「パックマン」をプレイできる仕様に数日間変更しました。全世界のユーザーは合計481万時間以上をこのゲームに費やし、経済的な損失額は1億2048万ドルに達したと言われているそうです。数日間、わずか数分で終わるゲームも莫大な数字になるということは、空港のセキュリティが厳重になったことによる全世界の空港利用者の損失は計り知れないでしょう。
空港でビジネス・パーソンに対し、厳重なセキュリティチェックをするということは、言い方を変えれば、空港側はビジネス・パーソンを信頼していないということになります。空港はビジネス・パーソンが、ひょっとしたらテロリストかもしれないと疑っているというわけです。9・11以前であれば、空港はビジネス・パーソンを信頼し、空港でロスする時間は少なかったわけですから。
このように、信頼関係が構築できていないことを「低信頼」、そして「低信頼」がもたらす損失を「信頼税」とスティーブン・M・R・コヴィーは呼んでいます。
逆に「高信頼」は「信頼配当」をもたらします。見てみましょう。
投資家としてあまりにも有名なウォーレン・バフェット氏はバークシャー・ハサウェイ社のCEOでもあります。
ウォーレン・バフェット氏は、ウォルマート社から物流会社のマクレーン社を2003年に買収した際、2時間の会議1回きりで合意に達し、わずか1ヶ月程度で買収にかかわる業務を完了してしまいました。通常このくらい大規模な企業同士の合併となると、両社の調査に数ヶ月要し、会計士や監査人、弁護士に照合してもらうのに数百万ドルかかるそうです。それをわずか1ヶ月で完了したのです。
バフェット氏はこの買収劇に関して次のようにコメントしています。
「我々はデュー・デリジェンス(その取引が適正であるか、価値があるかを事前に調査すること)を全く行いませんでした。ウォルマート側のいうことには間違いはないと我々は確信していたからです。そして、実際にその通りでした」
このケースは、両者の信頼がきっちりと構築されていれば「信頼配当」をもたらし、逆であれば「信頼税」をもたらすことを明確に示しているといえるでしょう。信頼関係を確実に築いていた両者は、時間と費用の節約という大きな「信頼配当」を手にしたのです。
それでは、あなたがこれまでに受け取ってきた信頼配当と、支払ってきた信頼税について考えてみましょう。
- 信頼関係が構築されていたがゆえに、信頼配当を得た経験を教えてください。どのような配当を得ましたか。
- 信頼関係が構築されていなかったがゆえに、信頼税を払わざるを得なかった経験を考えてください。どのような税を課せられましたか。