「信頼されるリーダーの13の行動」も最後の13番目になりました。これまで一貫して「信頼が増えるも減るも、あなたの行動で決まる」ということをお話ししてきましたが、今回の「他者を信頼する」という行動でもそれは同様です。
それでは初めに、あなたの現状を評価してみましょう。あなたが、普段から他者を信頼していれば10点、逆の行動や偽りの行動が多ければ多いほど0点に近くなります。自分の言動を振り返って、点数をつけてください。
行動 |
逆の行動、偽りの行動 |
現在の成績 |
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他者を信頼する |
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/10点 |
「他者を信頼する」とは
「他者を信頼する」という13番目の行動は、今まで紹介した12の行動とは性質が少し違います。これまでの行動は、より「信頼される」リーダーになるためのものでしたが、この行動は自分が他者をより「信頼する」リーダーになろうとするものだからです。
信頼とは一方通行ではなく相互関係です。相手を信頼することによって、その相手から自分に対する信頼を得ることができます。なぜなら、人は自分を信頼してくれる人を信頼するものだからです。たとえば、信頼関係が十分に構築されていないとき、自分から相手を信頼することは、信頼を築くための最善の方法の1つといえるでしょう。
その点で、「他者を信頼する」という行動は、スティーブン・R・コヴィー博士が提唱する「7つの習慣」の中の第五の習慣「理解してから理解される」と似たところがあり、自分が先に相手を信頼することによって、相手からの信頼を得ることにつながるのです。
しかし、「他者を信頼する」という行為には、「騙されたくない」という気持ちの壁が立ちはだかることでしょう。見境なく人を信頼する能天気な人間だと軽んじられたくない、人からいいように使われたくない、と思うのは自然なことです。
それでも、「他者を信頼する」ことによって、あなたは想像を超えるような素晴らしい効果が得ることができるのです。そのことを決して忘れないでください。
他者を信頼しないとどうなるか?
「他者を信頼する」という行動は、エンパワーメントや相互利益の原則に基づいています。さらに、ほとんどの人は信頼されるに値する人間であり、信頼されることを願っていて、信頼されればそれに応えようとする気持ちが根底にあるものです。
「他者を信頼する」の逆の行動は、「人を信頼しない」ことです。これが組織に蔓延すると至る部分で多大なコストがかかります。信頼できる大多数の社員を、信頼できないごく少数の社員と同じように扱うはめになり、管理やセキュリティ面で多くの手間とコストをかけ、各自の行動を厳しく規制することになります。そうなれば、ビジネスにおけるスピードにも深刻な影響を与えることになるでしょう。
「他者を信頼する」の偽りの行為には、2つあります。
1つは、嘘の信頼を提供すること。たとえば、任務を遂行する責任を持たせるだけで、手段を選ぶ自由や権限は与えない、といったものです。それでは相手を本当に信頼しているとはいえません。
もう1つは「偽の信頼」です。本当は信頼していない人に、あたかも信頼しているかのように振る舞うことです。仕事を任せておきながら、口うるさく監督したり、周囲をうろついて見張ったり、権威を振りかざすような態度をとったりします。ひどい場合には、相手に任せたはずの仕事を自分でやってしまう、などというのもこれに当たります
あなたの家庭や職場にも、このような行動をとる人はいないでしょうか。あるいは、あなた自身が偽りの信頼を提供していないでしょうか。もし思い当たる節があるようなら、まずは「他者を信頼する」行動を心がけてみましょう。
強力な動機づけ
スティーブン・M・R・コヴィーは「他者を信頼することほど、人を動機づけし、あるいは鼓舞するものはない」と語っています。
信頼されている状況にあると、人は管理や監督を受ける必要がなく、自分の行動を自身で管理できるようになります。
また、成功者に「人生で最も影響を受けた人物」を尋ねると、「自分を強く信頼してくれた人」という答えが返ってくることが非常に多いといいます。誰かが自分を信用してくれると、人はその信頼に応えたいと強烈に願うようになり、それがきっかけとなって、大きく成長していくのです。
「他者を信頼する」ことで、相手に力を与えることができます。また、自分のリーダーシップを効果的に活用することもできるようになるでしょう。
信頼とは、人の最もよい部分を引き出すものであり、高レベルの文化を構築し、素晴らしい相乗効果を生み出し、企業、家族、学校など、あらゆる組織の能力を最大化します。その結果、大きな目的を成し遂げることにつながるのです。
信頼を高めるヒント
「他者を信頼する」ためには、誠実さ、意図、力量、結果の強みが必要なことはいうまでもありません。下図の曲線の左端に位置している場合は、十分な信頼を与えていないか、効果的に与えていないことになります。勇気を増すこと(誠実)、信頼性を高めること(意図)はもちろん、期待を明確にし、他者に責任を果たさせ、より実用的な形で「賢い信頼(スマート・トラスト)」を提供すること(力量)を心がける必要があるでしょう。
逆に右端に偏るのは、信頼を与えすぎて痛い目に遭っている状態です。「信頼性の4つの核」のすべてを強化して、賢い信頼を提供するための判断力を身につけましょう。
それでは、「他者を信頼する」のに役立つ点を、具体的に紹介しましょう。
- 「自分が信頼されていない」と感じる関係について考えてみてほしい。その人があなたを信頼しないのは、あなたがその人を信頼していないからではないだろうか。もしあなたが下向きのスパイラルにはまり込んでいるようなら、それを逆転させることが必要になる。まず自分から相手を信頼する行動をとり、どんな変化が起こるか、しっかり見てみよう。
- 職場か家庭のいずれかで、あなたがどれだけ他者を信頼できているか、10段階で評価してみよう。あまり信頼を提供せず、低い評価しかできない場合、それがどんな結果を引き起こすか、想像してみてほしい。反対に、信頼を十分に提供していると評価できる場合についても考えてみよう。いずれにせよ、自分の評価が5以下だったら、もっと信頼を提供できるための改善策を見つけることだ。
- もしあなたが子どもを持つ親であれば、子どもとの会話の仕方に注意を払おう。すぐ疑ったり、うるさくつきまとったり、1から10まで口を出したたりしていないだろうか。それとも、信頼に値する責任ある人間としてきちんと接しているだろうか。
まとめ
自分が信頼できる人には思い切り信頼を提供すること。リスクがあるからといって信頼の提供を控える必要はない。
根底にある原則は、エンパワーメント、そして相互利益である。
逆の行動は、他者を信頼しないこと。
偽りの行動は、嘘の信頼を提供すること、本当は信頼していない人にあたかも信頼しているかのように振る舞うこと。