自分自身の信頼である第一の波、人間関係の信頼である第二の波に続く第三の波は、組織の信頼です。組織の信頼は、内部の利害関係者の信頼を確立することであり、組織設計やシステムにも関係してきます。
「スピード・オブ・トラスト」の著者であるスティーブン・M・R・コヴィーは、セミナーで「信頼性の4つの核」や「信頼されるリーダーの13の行動」についてまだ話していない段階で、次の4つの質問をするそうです。あなたも少し時間をとって考えてみてください。
- 低信頼組織(低い信頼がはびこる組織)の特徴は何か?
- 高信頼組織(高い信頼がある組織)の特徴は何か?
- あなたの組織はそのどちらに当てはまるか?
- その結果はどうか?
低信頼組織と高信頼組織について受講者の回答をまとめると、大体次のようになります。自分の組織や家族はどちらの特徴が当てはまるか、丸をつけてみてください。
低信頼の組織文化 |
高信頼の組織文化 |
---|---|
情報が抱え込まれてしまう |
情報がオープンに共有される |
手柄を立てることが重要視される |
間違いも成長の糧とみなされる |
新しい考え方は抵抗を受け、抑えつけられる |
文化が革新的かつ独創的である |
噂話が盛んである |
その場にいない人にも忠誠心が示される |
問題がないかのように振る舞い、現実を直視しない |
率直な話し方をし、本当の問題に立ち向かう |
非公式な会議が頻繁に行われる |
非公式な会議はほとんど行われない |
覇気が感じられない |
活気や活力に溢れ、それが人々に前向きな勢いを感じさせる |
責任になすり合いや他者の悪口が横行する |
功績を積極的に共有し、真のコミュニケーションと協調が存在する |
あなたの組織はどちらに丸が多くついたでしょうか。低信頼が多ければ、その理由を考える必要があります。信頼の構築を邪魔しているものが組織のシステムや構成のどこかにあるはずです。特にリーダーは、高信頼の環境を促進するシステムを構築して維持する責任を果たさなければ、一個人として部下の信頼を集めることはできたとしても、「組織の信頼」を確立することはできません。
価値観との一致
多くの会社が「信頼」を理念やバリューに取り入れていますが、実際には社員を信頼していないという例はいくつもあります。たとえば、社員を縛るような細かい規定や手続きといったものは、信頼をとは逆方向の表現といえるでしょう。信頼を重要視するなら、その価値観と行動を一致させなければなりません。組織の信頼を構築している企業の例を2つ紹介します。
- 多くの企業は、社員が盗んだり、私物化したりするのを警戒しますが、ヒューレット・パッカード社の部品箱や保管室には、社員が自由に使えるように鍵をかけていません。箱に施錠しないという方針は、社員に対する信頼の証なのです。
- 企業の方針やマニュアル、職務規定は分厚いものが多い中、ノードストロム社の方針マニュアルはカード1枚です。そこに書かれていることは、「我々の最大の目標は、卓越した顧客サービスを提供すること。個人の目標も職務上の目標も高く設定してほしい。必ずやそれらを達成できるものと我々は信じる。決められているルールはたった1つ。あらゆる状況において良識を働かせよ」という短いものです。このわずか1ページで、顧客満足の追求、非官僚主義を目指した企業風土、社員の能力とパフォーマンスに対する信頼を物語っています。社員が良識を働かせて卓越したサービスを提供するという明文化された価値観にもしっかり一致しています。
いかがですか。どちらの会社も、社員を信頼していることがよくわかります。あなたの組織を思い浮かべてください。そこに社内の利害関係者に信頼を伝えるための象徴はあるでしょうか。そして、それらは高い信頼を築く原則と調和しているでしょうか。社員への信頼を示すには、ヒューレット・パッカードやノードストロムのように、システムや組織構成にその考え方を反映させなければなりません。そうすれば、部下は信頼できるリーダーの意識に沿って、他者を信頼するような行動を強化・実行するようになり、パラダイムと行動が一致して上向きの好循環を生み出します。
どうやって組織を変革するか
あなたが属する組織の信頼が低ければ、それを改善する方法として「信頼性の4つの核」をもう一度確認してみましょう。次の点について自問してみてください。
【1】誠実さ
- 自分の組織に正直の文化、謙虚の文化はあるか。
- お互いの考えに耳を傾けているか。
- 間違いを犯したら、それを認めることが許されているか。
- システムや組織構造は倫理的行動を奨励するものか。
【2】意図
- 同僚、顧客に対して思いやりを示す文化があるか。
- 誰もが組織の成功を望んでいるか。
- システムは競争に報いるものか、それとも協力に報いるものか。
- アイデアや情報を自由に共有しているか。
【3】力量
- 価値を生み出し、市場での競争に必要な才能、態度、スキル、知識、スタイルを持っているか。
- 必要に応じて改善や刷新をし、自ら再構築しているか。
【4】結果
- 約束したことを実行しているか。
- 信頼を助長してきた実績があるか。
- 価値を創出し、約束を果たす組織であると世間から信頼されているか。
- 顧客は他の顧客に自分の組織を推薦してくれるか。
あなたの組織や家族にいずれか欠けている部分があるとしたら、価値観と一致させ、組織の信頼の構築に着手すべきでしょう。あなたがたとえリーダーでなくても、個人として信頼性を高めれば、自ずとその影響が周囲にも及びます。次に紹介する4つの核の強化方法をヒントにして、ぜひ取り組んでみてください。
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【1】誠実さ
- 多くの人を参加させてミッション・ステートメントやバリュー・ステートメントをつくる。約束をし、それを守る文化を組織内に構築する。
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【2】意図
- 信頼を築くような動機と原則を反映するミッションや価値観を持つ。思いやりの模範を示す。特にリーダーが敬意や思いやりを示すことが組織に大きな効果をもたらすことを忘れないでほしい。競争より協力に報い、相互利益を実現するようなシステム構築も必要だろう。
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【3】力量
- 組織内の構成やシステムを改善し、市場で競争力を保つのに必要な才能の流出を防ぐ。時代に適応していくことと成長から生まれる満足感を享受できるよう、トレーニングや能力開発システムを継続的に提供する。
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【4】結果
- 望ましい結果の共通ビジョンを持てるようにするとよい。「バランス・スコアカード」を作成し、利害関係者すべての要求を満たす努力をする。手段より結果についての定期的説明を重視する文化の構築も有効。
あなたが想定した組織がどんなレベルであれ、4つの核を強化することによって信頼構築に驚くほどの効果がもたらされるでしょう。築かれた信頼によって、物事のスピードが上がり、コストは下がり、驚くべき配当を手にすることができるようになります。