ビジネス・パーソンのための信頼構築講座 第30回 「社会の信頼 貢献の原則」

信頼は第一の波の自分自身から始まって、人間関係、組織、市場へと波紋のように広がり、それらすべての信頼が第五の波である社会の信頼につながります。

例えば、私たちは車を運転しているとき、道路を走っている他のドライバーには運転技術があり、ルールを守るものだと信じています。そうでなければ、安心して運転することなどできません。一人ひとりの信頼が、安全で高信頼の車社会を築いているのです。

貢献の原則

高信頼社会では、全員がより多くの選択肢や機会を持つことができ、安心して生活ができます。物事のスピードが高まり、コストは低下する社会です。
そんな高信頼社会を築くためにもっとも重要な原則とは何でしょうか。スティーブン・M・R・コヴィーは、貢献の原則だと言います。
貢献とは、価値を創出することであり、恩に報いることで、豊かな社会を築くのに欠かせません。いま、世界中の多くの人が貢献の重要性に気づきつつあります。長者番付の上位に名を連ねる人は、多額の寄付や慈善活動をするのが当然の行為になってきています。また、億万長者や有名人でなくても、世界中で貧困にあえぐ人々の医療や教育、福祉に貢献する活動、虐待された子供や老人の福祉活動、自然環境を守る活動などが盛んに行われています。私たちの記憶に新しいのは、東日本大震災でしょう。国内外の多くの人が募金や援助物資、ボランティア活動に参加して、被災した人たちに手を差し伸べてくれました。震災は悲しい出来事でしたが、今までボランティアに参加したことのない若者や子供にまで、社会貢献の意識を起こさせました。こうした活動が行われなかったら、私たちの社会は大きく衰退してしまうに違いありません。高信頼社会には、このように自分のことだけでなく、他者を思いやり、共に助け合う気持ちが不可欠なのです。

ビジネスにおける貢献の原則

貢献の広がりは個人だけのトレンドではありませせん。社会に貢献するシステムを採用するなど、貢献する意義を認識する企業が増えつつあります。
その多くは、収益を得てから有意義な目的にお金を寄付するという慈善の概念で行われています。しかし、今日の傾向は、グローバル・シチズンシップや社会的責任(CSR)へと向かっています。この手法はビジネスとは別の慈善活動としてではなく、貢献がビジネスそのものの一部と考えるものです。グローバル・シチズンシップの代表例は、バングラディシュのグラミン銀行です。この銀行の貢献は、銀行業務から発生した利益の一部を貧困者に寄付するというものではありません。経済的に苦しい人たちが身を立て、スキルを身につけて稼ぐようになるために、ビジネスとして50~200ドルの小額融資を行うというものです。

企業活動の前提条件としてのグローバル・シチズンシップ

皆さんは、「意識の高い資本主義(コンシャス・キャピタリズム)」という言葉をご存知でしょうか。利益や株主価値を最大化するだけでなく、社会に貢献するというより高い目的を持った先進的な資本主義のことです。意識の高い資本主義と企業の利益には関係があるどころか、その二つはセットになっているようです。パトリシア・アバディーンは自身の著書で、1984年から1999年の期間に、投資家、顧客、社員、仕入れ先、地域社会などあらゆる利害関係者との関係において優れている企業(通称、利害関係者スーパースター)は、スタンダード・アンド・プアーズ総合500種株価指数を126%上回ったと紹介しています。
さらに、デュポール大学が2002年に実施した調査でも、「企業市民ベスト100」に選ばれた企業の全体財務実績は、スタンダード・アンド・プアーズ総合500種株価指数を大幅に上回るということがわかりました。この事実は、社会レベルにおいてリーダーシップがすべての利害関係者に「信頼を抱かせながら結果を出しつつある」ことを如実に物語っているのではないでしょうか。
グローバル・シチズンシップは、最終的に絶好のビジネスとして求められるようになるでしょう。近年、「誠実さ」と「意図」、「力量」と「結果」を実践している企業に対して、その製品購入という形で支持を表明する消費者が増えています。こうした傾向は、「意識の高い資本主義」が企業活動の前提条件になることを示しています。

個人として選択すべきグローバル・シチズンシップ

組織のグローバル・シチズンシップの中核には、個人としてのグローバル・シチズンシップが存在しています。それは、あなたや私が他者の幸福を高く評価し、それに投資することを意識的に決断することであり、その決断を生活のあらゆる場面で実行することで社会に貢献します。
その際の手法は、インサイド・アウトの手法です。まずは「信頼性の四つの核」に立ち返り、自分自身から始めるのです。自問してみてください。自分は信頼に値する人間か。善行をし、貢献する「意図」を持っているか、と。
次は家族について自問します。自分が家庭内で先頭に立ち、家族が良きグローバル・シチズンになるのを促し、サポートしているか。模範を示しているか、と。
さらに組織について自問します。属する組織は誠実さを備え、それを行動で実践しているか。違いをもたらす「力量」を備えているか。株主以外の利害関係者のために結果を出しているか。組織内に良きグローバル・シチズンを育成しているか、と。
グローバル・シチズンシップは個人が選択するものであり、人格全体の選択となります。そして、自分自身の人格としてそれを選択すると、職場の人間関係や家族にその影響がおよび、いつかその相手にも同じ選択をさせることになります。こうして、社会の繁栄に貢献する組織や家族を一緒になって築いていくのです。

低信頼の組織に7種類の税金が発生する一方で、高い信頼は組織や個人に配当をもたらします。組織に信頼があれば、すべての社員は自分が本来やるべき仕事に集中することがで

まとめと課題

最後に「利害関係者の信頼」で重要なポイントを整理しておきましょう。

  1. 「信頼性の四つの核」と「信頼されるリーダーの十三の行動」は、組織、市場、社会など、あらゆる状況で信頼を確立または回復する手段となる。
  2. 「組織の信頼」を確立する際の原則は「一致」、つまり組織内の構成やシステムすべてを「核」や「行動」と一致させること。それにより、内部の利害関係者に対して信頼が築かれる。
  3. 「市場の信頼」を確立する際の主要な原則は「評判」あるいはブランドである。外部の利害関係者に対して信頼を築き、製品やサービスの購入、投資、ほかの顧客への推薦を促すためには、「核」と「行動」を実践して信頼性と行動を生み出さなければならない。
  4. 「社会の信頼」を確立する際の主要な原則は「貢献」である。それは、恩に報いる意図、グローバル・シチズンシップとしてアカウンタビリティを果たす意図を実践することであり、知識労働者が主役を担う今日、これは社会的、経済的前提条件になりつつある。

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