今回は「信頼されるリーダーの13の行動」の8番目、「現実を直視する」です。厳しい状況や弱い自分を見つめるのを恐れるリーダー、どんな状況でも根拠なく「大丈夫だ」と考える楽観的なリーダーは、正しい決断を下すことはできず、結果的に信頼を失います。
それでは初めに、あなたの現状を評価してみましょう。あなたが、普段から現実に正面から取り組んでいれば10点、逆の行動や偽りの行動が多ければ多いほど0点に近くなります。自分の言動を振り返って、点数をつけてください。
行動 |
逆の行動、偽りの行動 |
現在の成績 |
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現実を直視する |
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/10点 |
「現実を直視する」とは
職場や家庭において、関係者全員で検討すべき重要な問題を数人が非公式で話し合う場面や、特定の問題を皆が明らかに避けているような場面に居合わせたことはありませんか。どんな問題も誰もがオープンに、しかも尊重し合いながら話し合い、解決されていたら、多くの時間を節約でき、状況は大きく変わり、信頼関係を強化できるというメリットがあるにもかかわらず、こうした行為はよく見られます。
「現実を直視する」とは、困難な問題でも正面から取り組むということです。良いことに限らず、悪いことも共有すること、誰もが目をつぶっている問題をあえて持ち出すこと、タブーに切り込むこと、触れにくい問題について話し合うことを指します。こうしたことを適切に行うと、あなたが率直で、難題を避けて通らず、信頼できる人間であることが相手に伝わります。
「現実を直視する」という行動は、勇気、責任、自覚、そして敬意の原則に基づいています。その逆の行動は、現実を無視して存在しないかのように振る舞うこと、やがて消えてなくなるかのように思い込むことです。偽りの行動は、現実を見ているようでも実際には真の問題から目を背け、見せかけの仕事に逃げ込むことです。
こうした逆の行動や偽りの行動は、閉鎖的で透明性に欠け、率直な話し方ができないなど人格に問題があるか、無能で、何が真の問題なのかわかっていないなど能力に欠ける人間だと見られることにつながります。どちらであっても、現実を直視できない人とは信頼を築くことはできません。
「現実を直視する」と、スピードとコストに関して少なくとも2つの重要な効果が生まれます。第一に、オープンな議論、達成までのスピードを促進するような関係が築かれます。第二に、表向きはバラ色の絵を描いて見せながら難題に苦労して取り組むのではなく、周囲の人の独創性や能力、相乗効果を活用して問題を解決することができます。そうすると次々にアイデアが湧いて、革新と協調の空気が生まれるので、有効な解決策が迅速に生み出されます。さらに、問題解決のプロセスにかかわる人たちの理解や賛同も得やすく、期待も高まります。
人はなぜ現実から逃げるのか
良い知らせだけでなく、悪い知らせも共有することは、「あなたなら、そういうことについても理解や対処ができると思っています」という敬意を示すことにもなります。
しかし、人はなぜ現実から逃げようとするのでしょうか。1つは、他者に良く思われたい、悪いことを伝える悪者にはなりたくないという心理が考えられます。悪いことの伝達を自分の補佐にやらせて、自分の信頼性や信頼を維持することが狙いかもしれませんが、そうした行動は実際は逆効果でしかありません。部下たちから見れば、自分たちのリーダーには正直さが欠け、厄介な問題にかかわるのを避け、いやな仕事を他者に押しつける無責任なリーダーと映るでしょう。そして、そこに生み出されるのは、莫大な税金です。
また、苦痛を味わいたくない、下手に現実に立ち向かって面目をつぶしたくないという場合もあります。たとえば、自分の子どもが万引きやいじめをしているとすれば、親としては悲しいことです。あまりの辛さから気づいても見て見ぬふりをしたり、子どもと向き合うのを避けてしまうのです。
問題を先延ばしにしたところで、自然に解決や改善ができるものではありません。それどころか、すぐに行動しないと、解決の選択肢はどんどん減るばかり。後手に回るのは避けなければなりません。
信頼を高めるヒント
「現実を直視する」という行動のスイート・スポットは、「信頼性の4つの核」のすべてが、絡み合って生まれる判断だということは明らかです。曲線の左端は、何事もよく見せたいと思ったり、立ち向かう姿勢が無視されたり、弱められたりする場合です。スイート・スポットに近づくためには、「誠実さ」を高め、「意図」を改善し、信頼力(力量)を強化し、現実を直視する「結果」を経て、信頼性を高めることが必要です。逆に右端は、問題そのものよりも、相手の人間に容赦なく挑みかかるような行動です。または、「みんな揃って討ち死にするしかない」といった極端に走ったり、「私にはこのひどい状況はお手上げだ」という被害者意識に陥る場合などです。
しかし、ジェームス・コリンズも指摘するように、残酷な現実に立ち向かい、なおかつ信頼を失わないことは可能なのです。彼が調査した企業およびリーダーで、「良い企業」から「偉大な企業」へと成長したところはまさにそれを実践しており彼らのそうした姿勢が新たな強みを生み出したのです。
「グラフの最適化の鍵は、それぞれの行動を『信頼性の4つの核』の最も高いレベルで組み合わせることだ」とスティーブン・M・R・コヴィーはいいます。そうすることにより、行動を適切に応用するための判断力が最大化されて、信頼関係を支配する原則と調和できるようになるのです。
それでは、「現実を直視する」のに役立つ点を、具体的に紹介しましょう。
- 職場や家庭で、今度あなたが現実を直視するのを躊躇することがあったら、結果が心配なのか、苦痛を恐れているのか、心の中を覗いてみよう。現実に立ち向かわなかったらどうなるか想像してみることだ。他者をあるがままの状況に対処できる大人(または分別のある子ども)として扱おう。現実に立ち向かい、そして人には敬意をもって接すること。
- 経済状況、職業上の資格、あるいは健康について、あなたは現実に立ち向かっているか、それとも非現実的な世界に逃げ込んでいるだろうか。自分に対してどこまでも正直であるように努めなければならない。自分の望む結果が得られるような原則を見つけ、それに沿った生き方をしよう。
- 私生活や職場での関係に窮屈さを感じているとしたら、その原因を分析してみよう。率直で高い信頼に基づいた関係を築く上で障害になる問題が何かあるだろうか。その問題に正面から勇気を持って取り組むようにしよう。
まとめ
「結果を出す」とは、困難な問題に正面から取り組むこと、触れたくない問題の存在を意識すること、悪い知らせも告げる勇気を持つこと、現実から目を背けないこと、など。
根底にある原則は勇気、責任、自覚、敬意である。
逆の行動は、現実を無視すること、現実から目を背けていつか消えてなくなるか、実在しないかのように思い込むことなど。
偽りの行動は、真の問題に目をつぶって、見せかけの仕事に逃げ込むことなど。